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コラム家づくり時評

強度偽装問題(5)

今の枠組みにおいて、住まい手を悪質な業者から根本的に守るシステムを作ることは無理だと思います。何かをすれば、他にも問題点が出てくる、あるいは住宅取得のコストが激増するなど、まるで何枚もの皿を同時に回しているようなもので、タダでさえ全部をまわし続けるのは難しいのに、さらに新しい皿を勢いよくまわし始めることに似ています。

しかし、それならいっそうのこと、皿回しを全部やめてしまえばいいのです。

よくよく考えてみれば、それらのシステムは全て建築基準法の対処療法、または補完する意味合いのものだということが分かります。どうして対処したり、補完しなければいけないのか、その答えは簡単です。日本の建築の最も基本的なルールである建築基準法そのものに問題があるからです。それをカバーしようとしてあっちこちに何かを付け加えたり、付け焼刃に補修したりするから、やればやるほどおかしなことになるのです。

そんなまどろっこしいことをせずに、いっそうのこと建築基準法を一から見直せばほとんどのことは解決するはずです。

建築基準法の欠陥に関しては、常に多くの方々が様々な視点から指摘しています。実際には建築基準法は頻繁に改正され、例えば住宅の強度に関する基準は改正のたびに厳しくなっています。これら細部に関しては私は論じる能力がありませんが、一番の本質的な問題点は、建築基準法が元々業者側のモラルを信頼する前提で作られており、その根本原理はこれまで一度も変えられていないということです。

日本は本当の意味での法治国家でない、契約社会でないとよく言われますが、歴史の古い日本では近代法治国家になるずっと前から人々の様々な営みが連綿と続いており、その全ての営みを最近になって無理やり法体系に押し込めなければならないという事態に直面しました。

しかし、それは川の流れをザルで止めようとするようなもので、個々の営みだけを見ればその必然性もありませんし、何よりも誰も望んでいません。そこで、今までの営みをなるべく邪魔しないようにとりあえず明文化し、万一それをはみ出たとしても、昔からやってんだったらまぁ仕方ないか、というような処理がされています。

例えば、有名な筑波のガマの油などは明らかに薬事法違反ですが、経済原理によって廃業する何年か前まで摘発はおろか、問題にする人も一人もいなかったのではないでしょうか? つまり、そういうことは伝統や文化の問題であって、法律で云々言うこと自体が野暮なことだというのが、多くの日本人の感覚だと思います。

住宅建築も言うまでもなく、とてつもないくらいの歴史がありますから、同様に建築基準法は一から理想の建築のあり方を構築したものではなく、今までの状態を追認・容認する形で作られたという経緯があります。以前お話した工事監理制度が機能していないということも、昔からそれでやっていた大工の棟梁の仕事を邪魔しないように意図的に機能させようとしていないと言ったほうがむしろ正確です。

言い換えれば、建築基準法というものは、日本の伝統や文化、そしてその延長にある国民の慣習を単に描写したものであり、純粋なシステムとしての法律ではないことを意味します。そして、そういう性質のものである以上、根本的な改正、つまり業者性悪説に立った改正は、日本のGDPの少なからぬ部分を占める住宅建築の産業構造を根底から揺さぶる可能性があり、現実的には簡単なことではありません。

森前総理が、この問題を追及すると日本経済が大変なことになる、というのは間違いのないことで、その影響は回りまわって住まい手の家計を直撃することにもなりかねません。つまり、是々非々の部分を洗いざらいきれいにしてしまうと、業者はもちろんのこと、関係のない人たちにまで様々な悪影響を及ぼす可能性があるのです。

しかし、もうここらが限界ではないでしょうか?

建築基準法が日本の伝統や文化を反映させたものだとすると、さらにその背景である国民の意識が変わり、その伝統や文化がすでに支持されていない以上、私たちがある程度の犠牲を払っても、業者性悪説に立った改正は必要なものだと考えます。

そもそも、性善説に立った法律などは、契約書の「誠意条項」と同様に理論的に矛盾していますし、国民にとって実用的なものではありません。ある程度の困難に直面しても、孫・子の代に本当に役に立つ家づくりのしくみを残すことは無駄なことではないと考えます。

特にまじめに営業している業者からの強い反発は必至でしょうが、建築業界には馴れ合い体質があり、自分自身は真っ当に営業していても、悪質な同業者には見て見ぬふりをするという悪習慣があります。なんら業界全体の自浄努力をせず、国民の琴線に触れるまでこの状況を看過した責任は、私も含めて住宅建築に携わる全員にありますし、前述のように根本的な改正が国民にも犠牲を強いる可能性がある以上、業者側に同情の余地はありません。

そんな中、今日の新聞には警察が関連法の不備を指摘している記事が掲載されており、建築基準法の根本的な改正の可能性も出てきました。もちろん、またまた「臭いものに蓋」的な改正に終わる可能性の方が高いのですが、そうさせないために住まい手の皆さんがこの問題を忘れることなく、注視し続けることが大切です。

(so-net運営の【Direction】に提供中のコラムを一部加筆修正)

2006/1/8(関)