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強度偽装問題(6)

しかし、本当に法制面を根本的に整備すれば、住まい手本位の住宅業界に生まれ変わるのでしょうか? 結論から申しますと、環境がどうであろうと、最終的には住まい手は自分で自分の身を守るしかないと思います。

法律がいかに整備されていても、閑散とした夜道を警戒しない女性はいないと思いますし、「誰でも簡単に年収1億円!」なんていうスパムメールを誰も容易に信用しないと思います。後で警察が犯人を捕まえてくれたとしても、実際に被害を受け、損害を被ることには変わりがないからで、住宅についても全く同じことがいえます。

しかし現実には、住まい手のかなりの割合の方が、やろうとすれば少なからず自分自身で身を守れるにもかかわらず、初めからそれを放棄しているように見受けられます。実はこのあたりに建築業界が甘やかされている一番の原因があります。

相手が常に悪いことをするだろうという前提に立つ必要もありませんが、かといって全くの警戒心もなく手放しで信じてしまうことは「好きなようにしてくれ」といっているのと同じです。

私の知人が何年か前に、住宅を購入しました。そのご夫婦は、共に最先端の上場企業で働いており、社会的に見れば並以上どころか、日本でも一握りの知性を持ったご夫婦です。ところが、プライベートで家を買うとなると、耐久性や施工企業の信頼性などにはそこそこに、プランや立地だけでいとも簡単に決めてしまいます。

このご夫婦のエピソードは決して例外ではありません。会社では一部のスキも見せない方が、なぜか自分自身の住宅のことになると、まるで思考能力が止まったかのように相場や信頼性などをろくに調べもせず、当事者である営業マンのトークを鵜呑みにして住宅を購入するケースは、私が知っているだけでも少なくありません。

例えば、今回のヒューザーのケースでもまず近隣の相場を調べ、それと比較して驚くほど安ければ、普通は何かあるんじゃないかと思うのではないでしょうか?

例えば、スーパーでいつもは150円するネギが100円で売っていたら、何かあるんじゃないかと思いませんか? まぁ、ネギであればそれ以上突き詰める必要もないかもしれませんが、住宅の選択は下手をすると住み手が一生を棒に振ることにもなりかねない、人生で最も大切な意思決定の一つです。

ヒューザーは全部の階で同じ間取りを採用しているから、と説明しているようですが、その程度のことで大幅にコストが下がるのであれば、他の業者も皆そうしているはずであり、それは少し考えれば分かることです。むしろ自分を納得させるためにその理由を自ら進んで受け入れてしまったのではないでしょうか?

以前に申し上げたように、確実に住宅業界の悪人から身を守るためには、住まい手が相手と同等の知識を持つしかなく、仕事を持っておられる方々には時間的にそもそも無理なことなのですが、完全に同等とまで行かなくても本やネットで調べられる限り、最低でも警戒心を持って接するだけでも結果はずいぶんと違うものになると思います。

私たちは日常的に自分がほとんど知らない世界のことでも、自分で調べたり、経験者や詳しい人に聞いたりして選択の材料にしているはずです。ほんのちょっとの努力をするだけで、コマーシャルではいいことを言っていても実は画質のよくないテレビを買わずにすみますし、安くておいしいワインにありつくことも出来ます。誰にでもあるそのような経験を、そのまま住宅にも当てはめて考えればいいのです。

被害に遭われた方は心情的には本当にお気の毒ですし、十分傷ついておられるところに塩をすりこむようで恐縮ですが、今後のためにはやはり買い手の自己責任に目をつぶることは出来ないと思います。

業界側の責任を買い手に転嫁しようとしているのではありません。住まい手が成熟した消費者として当事者意識と自己責任意識を強く持ち、いい意味での批判精神とできる限りの知識、つまりは正しい選択を行うだけの姿勢と眼力をもって業者側に緊張感を与え、「変な物を売ろうとすると結局は損する」という状況を作り出すことが、住まい手本位の業界に作り変える一番の早道だと確信してならないからです。

「変なことをした方が儲かるし、そうしようと思えばいつでもできる」というのは多かれ少なかれこの業界の共通認識であり、決して「変なこと」をしない大多数の業者でも、日々無防備な住まい手に接する中で、その誘惑を断ち切るために並々ならぬ精神力を発揮しているはずです。

その共通認識が続く限りはいくら法制面を整備しても同様の事件が起こる可能性があり、その連鎖を断ち切ることができるのは、他でもなく住まい手自身しかないのではないかと思います。

口の悪い業界人から、「最近はスレた施主が増えた」という話をよく聞きます。お客様を「スレた」とはひどい言い方ですが、その言葉は今までいかにスレていない―こちらの言うことを鵜呑みにするような扱いやすい住まい手が多かったかということを物語っています。

その調子で、もっともっとスレて(?)いただくことが、単純ですが何よりも自分自身を守る一番の手段だと考えます。

(so-net運営の【Direction】に提供中のコラムを一部加筆修正)

2006/1/15(関)